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不動産投資に興味を持った会社員が、結局やめた理由
2022年の秋、職場の後輩から「不動産投資のセミナーに一緒に行きませんか」と誘われた。断る理由も特になかったので、東京・渋谷の会場に足を運んだ。その日から3ヶ月間、僕はワンルームマンション投資について真剣に調べ、悩み、最終的に「やらない」という結論を出した。その過程をそのまま書く。
セミナーの中身と空気感
セミナーは約90分。会場には40人ほどが集まっていた。年齢層は30代〜40代が中心で、スーツ姿のサラリーマン風の人が多かった。資料は洗練されていた。
内容の骨格はこうだった。
- 老後2,000万円問題:公的年金だけでは生活できない
- サラリーマンだからこそ融資が引きやすい
- 不動産は実物資産で、インフレに強い
- 入居者から賃料を受け取りながらローンを返済する「自己負担ゼロ」モデル
- 売却時にも利益が出る可能性がある
講師は不動産会社の社員で、実際の投資物件の事例を交えながら話した。「月々の手出しは3,000〜5,000円程度」「都内の1Kなら空室リスクも低い」という具体的な数字が出てきた。なるほど、と思う部分もあった。
ただ、セミナーが終わった後、個別面談を強く勧めてきた。「今日決めなくていいけど、一度だけ物件を見てみませんか」という誘いで、強引さはそこまでなかったが、アンケートを書いた翌日から2日に1回のペースで電話がかかってくるようになった。
提案された物件の利回り計算を自分でやり直した
個別面談で提案されたのは、東京都足立区にある築8年のワンルームマンションだった。価格は2,180万円、家賃収入は月78,000円という設定だった。担当者は「表面利回り4.3%」と言った。
計算式は「年間賃料収入÷物件価格×100」だ。78,000円×12ヶ月=936,000円。936,000÷21,800,000=0.0429、つまり4.29%。確かに数字は合っている。
しかし表面利回りには経費が一切入っていない。自分で実質利回りを計算し直した。
| 費用項目 | 年間コスト(概算) | 根拠 |
|---|---|---|
| 管理費・修繕積立金 | 144,000円 | 月12,000円(築8年、足立区相場) |
| 賃貸管理手数料 | 56,160円 | 家賃の6%(年間) |
| 固定資産税・都市計画税 | 80,000円 | 2,180万円クラスの概算 |
| 空室リスク(稼働率90%想定) | 93,600円 | 年1.2ヶ月分の空室 |
| 修繕費・設備交換(年間積立) | 60,000円 | エアコン・給湯器等の将来費用 |
| 火災保険(オーナー向け) | 15,000円 | 年間 |
| 年間経費合計 | 448,760円 |
年間賃料収入 936,000円から経費 448,760円を引くと、純収益は 487,240円。物件価格2,180万円で割ると、実質利回りは2.23%だ。
担当者が言っていた「4.3%」の半分以下だ。
ローン返済を加えると月次キャッシュフローはどうなるか
2,180万円の物件に頭金100万円を入れ、2,080万円を年利1.8%、35年ローンで借りた場合のシミュレーションをした。
月のローン返済額は約66,500円だ。家賃収入78,000円から管理費・修繕積立金12,000円と賃貸管理手数料4,680円(6%)を引くと61,320円。ここからローン返済66,500円を払うと、毎月5,180円のマイナスだ。
これが担当者の言っていた「月々の手出し3,000〜5,000円程度」の正体だ。確かに数字は合っている。しかしこれは空室ゼロ・設備故障なし・修繕費なし・固定資産税別払いという理想状態でのことだ。空室が1ヶ月出れば6万円以上のマイナスになる。エアコンが壊れれば8〜12万円の出費になる。
さらに問題なのは、月5,000円の手出しが35年続くと総額210万円だ。これに加えて購入時の諸費用(仲介手数料・登記費用・ローン手続き費等で物件価格の7〜8%、約170万円)を乗せると、初期から380万円超を投入することになる。
出口(売却)の現実を調べた
担当者は「売却時に価値が下がりにくい」「都内の物件なら需要が続く」と言っていた。これを確認するため、足立区のワンルームマンションの過去の価格推移を国土交通省の不動産取引価格情報(REINS成約データ)と、マンションレビューというサイトで確認した。
築15〜20年のワンルームマンションは、新築時比で平均20〜30%程度価格が落ちているケースが多かった。新築プレミアムがなくなる分だ。もちろん立地によって大きく異なる。山手線沿線の物件は落ちにくく、郊外は落ちやすい。足立区は山手線の外側で、中間的な扱いになる。
2,180万円で買って20年後に1,600〜1,800万円で売れれば、減価は380万〜580万円だ。その間の累積手出し(月5,000円×20年=120万円)と購入諸費用170万円を加えると、総支出は 680〜880万円になる。一方で、その間に受け取った純収益(実質利回り2.23%×2,180万円×20年=約973万円)と比べると、黒字だが薄利だ。
利益率を最大化するには「買い値が安い」「賃料が高い」「空室が少ない」「修繕費がかからない」「売り時を見誤らない」という複数の条件が重なる必要がある。どれか一つが崩れると赤字になる構造だ。
リスクを整理して書き出した
ワンルームマンション投資の具体的なリスクを列挙した。
物件・運用リスク
- 空室リスク(賃借人が退去後、次の入居まで数ヶ月かかることがある)
- 家賃下落リスク(築年数が経過すると相場が下がる)
- 修繕費リスク(大規模修繕積立が不足している管理組合がある)
- 管理組合のリスク(修繕計画の不備、管理費の値上がり)
- 天災リスク(地震・洪水等、東京は各所にリスク地帯がある)
金融・出口リスク
- 金利上昇リスク(変動金利の場合、ローン負担が増加する)
- 売却できないリスク(市場が冷え込んだタイミングで売れない)
- オーバーローンリスク(物件価値がローン残高を下回る状態)
業者・契約リスク
- サブリース契約の解約リスク(家賃保証が途中で下がる・打ち切られる)
- 管理会社の質(対応が悪いと空室が長引く)
書き出してみて気づいたのは、リスクの多くが「コントロール不能」だということだ。不動産は現金や株と違い、すぐに換金できない。売りたいと思ったときに買い手がいないと、損切りもできない。この流動性の低さが、僕にとっては最大のネックだった。
REITを代替手段として選んだ理由
不動産に投資したいという気持ち自体は残っていた。ただ、「直接保有」の形を取らずに不動産に投資できる手段としてREIT(不動産投資信託)を選んだ。
REITは証券取引所に上場しており、株と同じように買い売りができる。1口から投資でき、複数の不動産(オフィスビル・商業施設・物流施設・住宅等)に分散投資した形の商品だ。
ワンルームマンション直接投資との主な違いはこうだ。
| 比較項目 | ワンルームマンション投資 | REIT |
|---|---|---|
| 最低投資額 | 数百万〜数千万円 | 数万円から(銘柄による) |
| 流動性 | 低い(売却に数ヶ月) | 高い(市場営業日に即売却可) |
| 分散 | 1物件に集中 | 複数物件・地域・用途に分散 |
| 管理の手間 | 大(入居者対応・修繕等) | なし(運用会社が行う) |
| レバレッジ | ローンで2〜10倍 | 基本なし(信用取引は別) |
| 利回り目安 | 実質2〜4% | 分配金利回り3〜5%程度 |
NISAの成長投資枠を使ってREITに投資することで、分配金が非課税になる。具体的には、日本の主要なJ-REITインデックスに連動するETF(東証に上場している1343など)を毎月積み立てる形で始めた。元本を大きくリスクにさらさず、流動性を保ちながら不動産市場に参加できる。
「不動産投資をやめた」は正解だったか
2022年秋から2024年末にかけて、東京の不動産価格はさらに上昇した。あのとき2,180万円で買っていれば、2024年末時点では2,400〜2,500万円台になっている物件もあったかもしれない。そう思うと「買っておけば」という気持ちがゼロとは言えない。
ただ、価格上昇は事後的にわかることだ。「2022年に買っておけば良かった」という後悔と「2022年に買って毎月手出しを払い続けながら空室と戦う生活」を天秤にかけたとき、僕には後者のストレスに見合うリターンが明確に見えなかった。
不動産投資が向いている人は確かにいる。資金力があり、複数物件を持ってリスク分散できる人、管理や交渉が得意な人、長期で保有し続ける精神的余裕がある人だ。ワンルームマンション1室を2,000万円のローンで買って「老後の備え」にしようとする一般的なサラリーマンのモデルは、リスクとリターンが割に合わないと判断した。
今はREITへの積み立てを続けながら、インデックス投資と組み合わせている。派手な話ではないが、それでいいと思っている。
